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岡山地方裁判所 平成10年(ワ)624号 判決 2000年7月10日

原告

高畑仁

被告

竹村耕司

主文

一  被告は、原告に対し、金一八四三万七九一七円及びうち金一六七三万七九一七円に対する平成七年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、五八五八万〇五二九円及びうち五五五八万〇五二九円に対する平成七年四月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、原告運転の普通貨物自動車と被告運転の普通乗用自動車の正面衝突によって負傷した原告が、被告に対し、自賠法三条ないし民法七〇九条に基づき被った損害の賠償を求め、これに対し、被告が賠償義務を認めながら、損害額を争う事案である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 発生日時 平成七年四月七日午後九時五分ころ

(二) 発生場所 岡山県玉野市槌ケ原三〇八六番地先国道(以下「本件道路」という。)上

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車(岡山三三も四四八七)

(四) 被害車 原告運転の普通貨物自動車(岡山四〇ふ一四〇〇)

(五) 事故態様 原告が被害車を運転して本件道路を玉野方面から岡山方面に向けて走行中、加害車が反対車線からセンターラインをオーバーして進行してきたため正面衝突した。なお、被告は飲酒運転中であった。

2  責任原因

被告は、加害車を所有しこれを自己のために運行の用に供していた者であり、本件事故は、被告の過失に基づくものであるから、被告は、自賠法三条ないし民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷内容及び治療経過

(一) 受傷内容

原告は、本件事故により、左上腕骨骨折、右前腕骨骨折、骨盤骨折、右大腿骨開放骨折、左膝蓋骨骨折等の傷害を負った。

(二) 治療経過

原告は、右傷害により、次のとおり岡山赤十字病院で治療を受けた。

(1) 平成七年四月七日から同年九月三〇日まで入院(入院日数一七七日)

(2) 平成七年一一月九日から同年一一月一八日まで(入院日数一〇日)、平成八年一月二二日から同年二月一日まで(入院日数一一日)、同年五月二九日から同年六月二日まで(入院日数五日)、平成九年四月二日から同月一七日まで(入院日数一六日)の四回手術のために入院(入院日数合計四二日・乙八)

(3) 平成七年一〇月一日から平成九年五月一四日まで通院(実通院日数一二〇日)

4  損害の填補

治療費は、被告が全額負担したほか、被告は、原告に対し、八六一万三二二二円を支払い、原告は、自賠責保険から三三一万円の支払を受けた(合計一一九二万三二二二円)。

三  主たる争点

1  原告の後遺障害の程度、症状固定時期

(一) 原告の主張

(1) 原告には、本件事故により、左肩関節運動制限、左膝関節運動制限、右下肢短縮、骨盤骨変形障害、外貌の醜状痕等、多種にわたる後遺障害が残った。自賠責保険において第一一級の等級認定を受けたが、右障害の等級は第九級が相当と考えられ、労働能力の三五パーセントを喪失した。

(2) 症状固定日は、平成九年五月一四日である。

(二) 被告の主張

(1) 自賠責保険における等級認定は、おそらく併合評価と思われるが、労働能力喪失率は、具体的内容に応じて判断されるべきである。

(2) 症状固定時期は、原告主張の時期よりも早い。

2  原告の被った損害額

(一) 原告の主張

(1) 一日一五〇〇円の割合による入院雑費二六万五五〇〇円(入院日数一七七日)

(2) 一日六五〇〇円の割合による付添看護費九八万八〇〇〇円(原告の母一三一日、姉二一日)

(3) 一日往復九〇〇〇円のタクシー代一三五万二〇四〇円(一二〇日)

(4) 本件事故の日である平成七年四月七日から症状固定時である平成九年五月一四日まで七六九日間の休業損害六一五万二五六八円(平成六年分の給与収入二九二万〇二七〇円を基準とする。)

(5) 逸失利益四二二九万九六四三円(労働能力喪失率三五パーセント、就労可能年数三九年、ホフマン係数二一・三〇九、基準となる年収五六七万一六〇〇円〔原告の収入は、将来増額し得るものであるから、平成八年の賃金センサスによる産業計、企業規模計、男子労働者の平均賃金である年額五六七万一六〇〇円とするのが相当である。〕)

(6) 入院慰謝料六〇〇万円、後遺障害慰謝料九〇〇万円の合計一五〇〇万円

(7) 車両損害一五万円

(8) 住宅改造費一二九万六〇〇〇円(風呂と台所を障害者用に改造するための費用、便器代、松葉杖代の合計)

(9) 弁護士費用三〇〇万円

(二) 被告の主張

(1) 入院雑費は、額を争う。一日当たり一〇〇〇円程度が相当である。

(2) 付添看護費は、必要性を争う。

(3) 通院交通費は、不知。

(4) 休業損害は、額を争う。症状固定日は、原告主張の日よりも前であり、相当長期間のリハビリを行っているから、全期間一〇〇パーセントの休業とするのは、症状固定後の扱いとバランスを失する。

(5) 逸失利益は、額を争う。原告が主張する年収は、本件事故前の原告の実際の年収とは大きな開きがあるし、将来の増額を考慮して賃金センサスによる平均賃金とするは妥当ではない。

(6) 慰謝料は、額を争う。

(7) 車両損害は、額を争う。

(8) 住宅改造費は、三一万六六七三円の限度で本件事故との因果関係を認める。

(9) 弁護士費用は、額を争う。

第三当裁判所の判断

一  主たる争点1(後遺障害の程度、症状固定時期)について

1  前記第二、二の争いのない事実等、証拠(甲三六、五一、五二、六〇、六四、乙二、八、証人小野勝之、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故により、左上腕骨骨折、右前腕骨骨折、骨盤骨折、右大腿骨開放骨折、左膝蓋骨骨折のほか肋骨骨折の骨折傷害、腹部打撲等の傷害を負った。

(二) 右各骨折については、髄内釘を骨内に打ったり、プレートを当てたり、ワイヤーで締めつけるなどの固定手術が行われ、右前腕には抜釘の際に壊れたスクリューが現在も残っているが、他は抜釘された。

(三) 原告は、リハビリを続けたが、平成八年七月二二日の時点で左肩関節の稼働域は大分改善され、同年一〇月ころ以降は、膝関節の運動制限についてはあまり改善が見られず、平成八年一一月下旬の照会に対し、担当医である小野勝之は、「最近リハビリによる効果は殆ど現れていない。そろそろ終了すべきかも知れない。」との回答をした。また、小野勝之は、平成九年一月七日には、あまり症状が変わっていないので、そろそろ症状固定として治療を打ち切ることを考えていた。しかし、原告は、同年四月二日から同月一七日まで入院して、右上肢、下肢の抜釘手術を受けた。

(四) 自賠責の事前認定では、<1>左肩関節機能障害で一二級六号に、<2>左膝関節機能障害で一二級七号に、<3>右下肢短縮障害で一三級九号に、<4>骨盤骨変形障害で一二級五号に、<5>外貌の醜状障害で一二級一三号に認定され、併合で一一級に該当するとされている。

(五) また、後遺障害診断書(甲五一、五二)では、原告には、<1>左肩関節運動制限、<2>左膝関節運動制限、<3>左膝蓋骨の変形癒合、屈曲位での脱臼、<4>右下肢短縮(一・五センチメートル)、<5>醜状障害(右目上部に長さ約七センチメートルなど)の後遺障害が存するとされ、平成九年五月一四日に症状が固定したとされている。

(六) さらに、原告は、治療中に医師から簡単な軽い作業なら就労してもよいと言われていたものの、株式会社大建工務店に勤務し、土木作業に従事していたことから、平成九年一〇月二〇日まで休業した。そして、現在でもしゃがむ仕事、力仕事、はしごを使う仕事ができない状態で、正座もできず、左肩、左膝、右大腿部の痛みもあり、同僚や後輩より低い給料である。

2  右事実によると、原告は、左肩関節機能障害、左膝関節機能障害、右下肢短縮障害、骨盤骨変形障害、外貌の醜状障害の後遺障害があり、原告の勤務状況からすると、原告は、労働能力の二五パーセントを喪失したもので、症状は、平成八年末ころにはほぼ固定していたものの、最終的には、抜釘手術が終了した後である平成九年五月一四日に固定したものと認められる。

二  主たる争点2(損害額)について

1  入院雑費 〔認容額 二八万四七〇〇円〕

〔請求額 二六万五五〇〇円〕

前記第二、二3(二)によると、原告は、合計二一九日間入院したことが認められるところ、右入院期間等を考慮すると、入院雑費は、一日一三〇〇円が相当であるから、合計二八万四七〇〇円となる。

〔計算式 1,300×219=284,700〕

2  付添看護費 〔認容額 三六万〇〇〇〇円〕

〔請求額 九八万八〇〇〇円〕

証拠(甲三六、乙八、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故後意識混迷で、危篤状態で原告の母と姉が二一日間、母のみが一一〇日間付添看護したことが認められる、しかし、医師から付添看護を必要とする旨の判断がなされたとは認められず、これら原告の状態等を考慮すると、付添看護を要した期間は、六〇日間と認めるのが相当である。そして、一日当たりの付添看護費は、六〇〇〇円が相当であるから、原告の付添看護費は、三六万円となる。

〔計算式 6,000×60=360,000〕

3  通院交通費 〔認容額 一〇五万八六四〇円〕

〔請求額 一三五万二〇四〇円〕

前記第二、二3、証拠(甲五七、五八、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は、平成七年一〇月一日から平成九年五月一四日までの間、岡山赤十字病院に通院し、実通院日数は、一二〇日であること、通院には、タクシーを利用し(友人等が送迎してくれたのは、四、五日にすぎない。)、そのうち領収証があるのは、右期間中の八〇日間で平均料金は、往復八八二二円(円未満切捨て)であることが認められる。

したがって、通院交通費は、合計一〇五万八六四〇円となる。

〔計算式 8,826×120=1,058,640〕

4  休業損害 〔認容額 六一四万四五六八円〕

〔請求額 六一五万二五六八円〕

原告は、本件事故当時、株式会社大建工務店に勤務していたが、本件事故により平成七年四月八日(事故日の翌日)から症状固定日である平成九年五月一四日までの七六八日間休業せざるを得なかったもので、原告の平成六年分の収入は、二九二万〇二七〇円(甲五九)であったから、右期間の休業損害は六一四万四五六八円となる。

〔計算式 2,920,270÷365×768=6,144,568(円未満切捨て)〕

5  逸失利益 〔認容額 一二四二万三五五八円〕

〔請求額 四二二九万九六四三円〕

前記一2のとおり、原告は、左肩関節機能障害、左膝関節機能障害、右下肢短縮障害、骨盤骨変形障害、外貌の醜状障害の後遺障害があり、労働能力の二五パーセントを喪失し、症状が固定した平成九年五月一四日当時二八歳であったから、六七歳まで三九年間就労することができたと推定され、また、原告の平成六年分の収入は、二九二万〇二七〇円(甲五九)であったから、ライプニッツ係数を用いて中間利息を控除して逸失利益を求めると、一二四二万三五五八円となる。

なお、原告は、原告の収入は将来増額しうるものであるとして、賃金センサスを用いて逸失利益を計算するが、原告の収入が将来、賃金センサスの産業計、企業規模計、男子労働者の平均賃金まで増加する蓋然性があったと認めるに足る証拠はない。

〔計算式 2,920,270×0.25×17.0170=12,423,558(円未満切捨て)〕

6  慰謝料 〔認容額 八〇〇万〇〇〇〇円〕

〔請求額 一五〇〇万〇〇〇〇円〕

本件事故の態様、原告の入通院期間、後遺障害の程度等を考慮すると、通院慰謝料は、三〇〇万円が、後遺障害慰謝料は、五〇〇万円とするのが相当である。

7  車両損害 〔認容額 七万三〇〇〇円〕

〔請求額 一五万〇〇〇〇円〕

証拠(乙七)及び弁論の全趣旨によると、原告運転の被害車は、昭和五九年製の三菱ミニカで、本件事故により圧縮変形し、全損となったが、本件事故当時の時価は七万三〇〇〇円であることが認められる。

8  住宅改造費 〔認容額 三一万六六七三円〕

〔請求額 一二九万六〇〇〇円〕

原告は、前記後遺障害により、母所有の自宅を改造する必要があり、台所に階段や手摺りを取り付ける工事をし、その代金は一〇万九五〇〇円であり、また、風呂の改装費として一七万円が必要で、さらに、諸経費として、右改造費の一割に相当する二万七九五〇円と消費税九二二三円の合計三一万六六七三円が必要であった(甲五五、乙三、原告本人、弁論の全趣旨)。

原告は、台所の床の補修費や風呂の洗面化粧台、屋内・外給水・給湯工事等が必要であったと主張するが、その内容からして、原告の後遺障害のために改装が必要であったとは認められない。

9  損害の填補

前記第二、二4のとおり、治療費は、被告が全額負担した(本訴で請求はない。)ほか、原告は、合計一一九二万三二二二円の支払を受けた。

右1から8の合計額は、二八六六万一一三九円となるところ、これから右損害の填補額を控除すると一六七三万七九一七円となる。

10  弁護士費用 〔認容額 一七〇万〇〇〇〇円〕

〔請求額 三〇〇万〇〇〇〇円〕

本件事案の内容、審理の経過及び認容額等を考慮すると、弁護士費用は、一六〇万円とするのが相当である。

11  結論

よって、原告の請求は、一八四三万七九一七円及びこれから弁護士費用を控除した一六七三万七九一七円に対する本件事故の日の翌日である平成七年四月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  以上によれば、原告の請求は右の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野木等)

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